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外もすっかりオレンジ色に染まり、俺たち4人は帰ることにした。
｢…じゃあ、井ノ原。しっかり身体休めろよ｣
井ノ原が頷くのを確認して、俺たちは病室を出た。
｢剛は、もう帰ったのかな｣
健が心配そうに言うと、
｢もう帰ったよ｣
ちょっと離れたところから声がして、振り向けば長野が言ったのだとわかった。
｢…長野｣
長野は俺たちの前で止まり。
｢剛は大丈夫。心配しなくていいよ｣
と優しく笑って、健の頭を撫でた。
｢…イノッチは、もう治らないの？｣
不意に准一が呟いて。
長野は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔に戻って、准一の頭もポンポンと撫でた。
｢そんなこと、ないよ｣
今日はちょっと、調子悪かっただけだよ。
長野は硬まった笑顔でそう続けた。
｢じゃあ俺たち、帰るから｣
言うと、長野はこくん、と頷いて。
｢またすぐ来るからね｣
と言う准一と健に、優しく笑っていた。
3人が歩いて行くのを見届けて、思わず零れる、ため息。
『イノッチは、もう治らないの？』
『もうオレは、いくら頑張ったって治らないんだよ！』
…治らない病気、じゃない。
余命宣告だって、まだ。
…まだ。
よっちゃんが思っているだけだよ。
治らなく、ないよ。
…頑張るんだよ。
大丈夫、だよ。
自分に何度も言い聞かせて、長野は井ノ原の病室に向かった。
コンコンッ
はい、と言う声を聞いて、ドアを開ける。
｢あ…｣
俺を見て、不意に気まずい顔をする、よっちゃん。
俺はなんでもないかのように、笑って見せた。
｢熱はもう、大丈夫かな｣
額に手を当てると、まだ少し熱を持つ身体。
まだ落ち着かない様子のよっちゃんに、優しく笑って体温計を脇に挟ませた。
ピピッと鳴って、取り出すと、出る数字。
｢37度7分…まだちょっとあるね｣
もう少し安静が必要だね。
そう笑い掛けると、苦い顔をして逸らされる目。
傷ついた目。
申し訳なさそうな目。
少し腫れた、頬。
｢…ちょっと腫れちゃったね｣
ちょんちょん、と右の頬を突くと、ハッと目を見張らせる。
そして。
｢…ごめん、なさい｣
よっちゃんは小さく呟いて、唇を噛んだ。
昨日言い放ったよっちゃんの言葉を、思い出す。
『もう治らないんなら、ほっといてよっ！』
言うつもりはなかったと思う。
でも、それはよっちゃんの心の叫び。
本心。
｢自由にさせてあげられなくて、ごめんね｣
一瞬、よっちゃんは泣きそうな顔をして、俺を見た。
屋上に行かせてあげられなくて、ごめんね。
ギターも歌もやらせてあげられなくて、ごめんね。
…治せなくて、ごめんね。
｢我慢ばっかりで、ごめんね｣
もう一度言えば、よっちゃんはふるふると首を横に振り、
笑った。
まるで向日葵のような、明るい、輝かしい笑顔。
神様。どうか。
この笑顔を、盗らないで。
ずっと、一緒に、いさせてください。
そう願って、止まなかった。