第15話
「ろっくねんいっちくみは~」
2年生の双子、剛と健は、剛の教科書に紛れていた快彦のノートを、快彦に届けに廊下を歩いていた。
「ここだな」
「うん」
教室に着いて、剛はドアをノックしようとしたが、ドアの窓から、教室の後ろに人だかりが出来ているのが見えると、手を止めた。
「なんか、人がいっぱいいるね」
「うん。…あれ? 真ん中に誰か倒れてねぇ?」
男子5、6人が、真ん中にいる子を蹴っているようだった。
「あれ…、いけないこと、やってない…?」
「うん…。 …?! てかアレ、真ん中にいるの、快兄じゃん!」
「えっ?!」
男子たちの間から見えたのは、快彦だった。剛たちは焦った。
「アレ、快兄だよな?! 蹴られてる人……健っ?」
剛が言い終わらないうちに、健が勢いよくドアを開けた。
「健っ…」
「快兄っ!!」
健が大声で叫んだ。すると、今まで騒いでいたクラスは静まり返り、健に視線が集まった。
「なんだ? お前ら」
石井たち男子がツカツカと剛と健に近づいてきた。
「快兄をいじめるな!」
「ヨシニイ?」
「…っ! 健っ…!」
石井たちの間から剛と健が見えて、快彦は急いで立ち上がった。快彦を見て、石井はニヤリと笑った。
「あぁ~。快兄ってコイツのこと? なに、お前ら弟なの?」
おもしれぇ、と石井は笑って、剛の持っていた快彦のノートを取り上げた。
「お前らもカワイソーだなぁ、こんな弱っちぃ兄貴持って。なぁ、快彦、わざわざノート届けにきてくれるなんて、お前の弟は優しいなぁ」
石井はそう言って、快彦のノートをビリビリと破いた。
快彦は、黙ったまま石井を睨みつけていた。
「快兄は弱くなんかないっ!」
健は叫んで、石井に突進した。しかし健の身体は小さく、すぐに肩を掴まれてしまった。
「健っ!」
ダンっ
その瞬間、快彦が石井を突き飛ばした。
石井は床に尻餅をつき、快彦は剛と健を廊下に出した。
「2人とも早く戻って!」
「でも快兄っ…」
「早く!!」
快彦が健に怒鳴ると、剛が健を引っ張って走っていった。健は心配そうにこちらを見ていた。
快彦がホッと息をついた途端、後ろから思い切り背中を蹴られた。
「ぅわっ…!」
倒れ見上げると、石井が怒りを含んだ笑みを浮かべていた。
「いい度胸してんじゃん…!!」
グッ! と勢いよく快彦の襟を掴み、壁に押し倒した。
「バカだなぁ~」
そう言って石井やクラスの皆は笑い出した。
そしてその時。
キーン コーン
カーン コーン
教室に、授業の終わりのチャイムが響いた。
笑いは止み、石井が言った。
「あーもう終わりだ。帰ろうっと」
石井が荷物を持つと、他の男子もそれについて教室を出て行った。そして他もパラパラと教室を出て行った。
残ったのは、快彦と、松岡だった。
松岡は教室の隅でうずくまっていた快彦に近づくと、スッと手を差し出した。
「ヨシ」
快彦は顔を上げ、躊躇いながらも松岡の手に自分の手を重ねた。
松岡は快彦を起き上がらせると、ペシ、と快彦の頭を軽く叩いた。
「大丈夫じゃねぇ、じゃん......」
松岡の声は震えていた。
「ホントは1人なの平気じゃないくせに」
「まつおか…」
「俺もう、アイツのこと許さねぇから」
松岡は力強く言って、教室を出て行った。
「…そうだよ」
誰もいない教室で、快彦は小さく呟いた。
「…1人は嫌だよ」
唇を噛んで。
涙を堪えた。