第12話
次の日の昼休み。
快彦は教室に1人でいた。
誰も話しかけずに、校庭に向かっていった。もちろん、松岡も。快彦は、1人で寂しくならないように、本を読んでいた。
途中、快彦は席を立った。1人で、トイレに立った。
その時は、教室に走っていく石井達に気づかなかったが。
教室に戻ると、もうチャイムが鳴ったようで、クラスの皆が席に着きガヤガヤしていた。そしてしばらくすると、先生が入ってきた。
「ほらー皆前向いてー......アレ...?」
先生は、自分の机をゴソゴソし始めた。何かを探しているようだ。
「せんせー、どうかしたんですかー?」
クラスの1人が言うと、先生は机を探しながら言った。
「いやー...さっき集めた集金、袋はあるんだけど、中身が全部無くなってるんだよ......」
皆「えーーっ!?」とザワつき始めた。「なんでー?」「誰か盗ったんじゃねーの?」と、口々に騒ぐ。
「先生っ!!」
石井が、高く手を挙げた。
「誰かが盗んだんじゃないですかっ?!」
石井の言葉に、またクラスが騒ぐ。石井は続けた。
「このクラスの誰かなら、今もまだ持っている筈です。1人1人の、道具箱を出して見てみたらどうですかっ?!」
「え〜やだぁ〜」「マジ、そんなヤツいるの?」
皆口々に言っていたが、先生が遮った。
「じゃあー......。皆を疑っている訳ではないけど、一応、皆、道具箱を出してみろ」
皆、一斉に道具箱を出した。すると、石井が立ち上がって大声を出した。
「あぁーーー!! 快彦の箱の中に、金どっさり入ってる!!!」
皆一斉に快彦を見た。
「えっ......?!」
快彦の道具箱の中には、札、小銭がどっさりと入っていた。 快彦は、頭の中が真っ白になった。
「なっ...なんで......?」
怖かった。怖くて怖くて、仕方が無かった。
......快彦って、そーゆーヤツなのかぁ
...最低。
...うっそアイツが!?
......気持ち悪ーい...
皆言いたい放題やっていた。しかし、快彦にはどの声も聞こえていなかった。
「坂本」
先生が、快彦の目の前まで来ていた。そこでやっと、快彦は我に返った。
「ちょっと、来い」
先生は快彦を廊下に出した。
誰もいない、階段のおどり場。先生の声が、廊下に響く。
「あれは、坂本がやったのか?」
ここで本当の事を言えたら、イジメは終わるのだろうか。先生は、なにかしてくれるのだろうか。
.......無理だと思った。
「......はぃ」
快彦は、俯いて小さな声で答えた。すると先生は、はぁ...と深くため息を吐いた。
「どうしてあんな事をしたんだ?」
「......」
分かれよ、と思った。俺がやる訳ねーじゃん、石井たちがやったんだよっ!
言える訳ない。
だから黙った。
「坂本」
煩い。
「どうして言わないんだ」
「ごめんなさい......」
なんで謝ってんだよ。
「坂本」
先生は、快彦の背中を押して歩き出した。
「もう、こんな事するなよ」
こんな事って?
「最近、坂本おかしいぞ。しっかりしなさい」
しっかり、しなさい?
教室に戻って、快彦は席に着いた。
もう頭の中がグチャグチャだった。
先生が嫌いだと思った。
教室に、微かな笑い声が響いた。