第9話
「快彦」
家に帰り、快彦が居間で宿題をしていると、昌行が快彦に言った。
「悪いんだけどさ、そこの商店街におつかい頼まれてほしいんだ」
快彦はニッコリ笑って、「いいよ」と答えた。すると昌行はホッとしたように笑って、お金と買うもののメモを快彦に渡した。
快彦は買い物を済ませて、家に向かっていた。
「あ〜。忘れ物ばっかりで不潔な快彦だぁ」
油断してたと思った。
目の前の曲がり角から、石井とそのグループの男子達が出てきた。
「石井...くん......」
快彦は一歩後ずさった。それを見て、石井はニヤリと笑った。
「あれぇ快彦、怖い? あーそりゃあそうだよねぇ、うん。教科書盗られたり上履き濡らされたりしたら、怖くなるに決まってるよねぇ」
石井はあっさりとそう言う。
「言っちゃっていいの〜? 石井」
『中島』という一人の男子がニヤニヤしながら言う。
「いーのいーの。言ったところでコイツ、何も出来ないっしょ」
石井が言うと、皆「そっか〜」と笑った。快彦は、俯いて、拳を握った。
「...やっぱり石井くん達だったんだ」
「あぁ?」
快彦が震える声で言うと、石井達は笑うのをやめた。
「......やめてよ」
「はあ?」
「やめてって言ってるの!!」
ドンッ。
快彦が言った途端、石井が快彦を押し倒した。 快彦は尻餅をつき、持っていた袋からはジャガイモが一つ転がった。
「口で可愛く言ってないでさぁ〜殴ってみれば? よ・し・ひ・こ君っ♪」
快彦は歯を食いしばった。
グシャ。
石井が、転がったジャガイモを踏みつぶした。とても、満足そうに笑いながら。
「無理かぁ。弱〜い快彦には」
石井たちは笑いながら、快彦の前から去っていった。
近くを通りすぎていく人々がチラチラとこちらを見てくる。
恥ずかしくなった。
快彦は、落とした袋を拾って、トボトボと歩き出した。
つぶれたジャガイモには、アリが寄って来ていた。
「ただいま......」
快彦が玄関で呟くと、それを聞き逃さなかった准一が走ってきた。
「おかえりっ よしくんっ♪」
すると、昌行もきて、快彦から買い物袋を受け取った。
「おかえり、快彦。ありがとな。おつりは返さなくていいから」
昌行は快彦の頭をポンッと撫でた。
「うん。あっ、でも、今気づいたんだけど......。ジャガイモ、一つ足りないかも......」
快彦が申し訳なさそうに言うと、昌行は変わった様子もなく「分かった」と頷いた。
.......ごめんなさい。昌行君。
快彦は心の中で呟いた。