ブイロク家族 8
 
 
第8話
 
 
 
 
次の日の朝。下駄箱で、快彦が上履きを取ると、上履きはぐっしょり濡れていた。
 
「うわぁ......」
 
履きたくないなあ、と思ったが、時間がなく、仕方なく足を上履きにはめた。
 
「うぇ〜...」
 
ぐちゃ、という音とともに水が靴下にしみ込んだ。歩くたびに、べちゃ、べちゃ、といって、水たまりに足を突っ込んだような気分だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「うわぁ〜きったねぇ〜〜〜!!」
 
快彦が教室に入った途端、石井が快彦の上履きを指差し大声を出した。快彦は驚きその場に立ち尽くした。
 
「快彦の上履きびしょびしょじゃんっ! チョーキモイ!」
 
クラスの皆が快彦を非難の目で見る。快彦は怖くて俯いた。
 
「そんなんで教室入ってくんじゃねーよ!!」
 
ドンッ。石井が快彦を押し倒した。快彦は教室のドアにぶつかって、尻餅をついた。そのまま石井を見上げると、石井は、満足そうに笑っていた。他の者は、皆黙ってみていた。
快彦は呆然として、そのまま尻餅をついたまま俯いていた。
 
 
 
 
キーン コーン カーン コーン
 
 
 
チャイムがなると、皆は急いで自分の席に座りだした。石井も快彦から離れていった。
 
皆がザワザワとしているとき、松岡は快彦に駆け寄った。
 
「大丈夫か?」
 
快彦を立たせ、松岡は続けた。
 
「ひでぇよな。上履き濡らしたの、アイツらだと思うんだよね。ヨシ、悪くないのに...」
 
すると、快彦は力なく笑った。
 
「平気。先生そろそろ来るから、座ろう」
 
松岡は不安になりながらも、席に戻っていった。
 
 
 
 
 
 
次の時間は、問題の、歴史の授業だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「また忘れたのか」
 
 
 
 
快彦が先生に忘れたと伝えると、先生は呆れたようにため息を吐いた。
 
 
 
 
「快彦また忘れたの? いっが〜い!!」
 
石井が態と大きな声で言った。
 
「石井は、黙ってなさい」
 
先生が静かに言うと、石井はペロッと舌をだし戯けてみせた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「坂本、これからは気をつけなさい」
 
快彦ははい、と言いながらも、恥ずかしくて俯いた。
 
その時間でも、快彦は隣の子に教科書を見せてもらえなかった。快彦が困った顔をするたび、石井達は笑っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その日の午後の授業。
 
「はい、じゃあ算数のプリント集めるぞ〜」
 
先生が声をかけると、皆ぞろぞろと先生のところへプリントを持っていった。
快彦も宿題を入れているファイルを出し、算数のプリントを探した。
 
 
 
しかし、プリントが見つからない。
 
 
 
「あれ?」
 
机全体を探す。それでも見つからない。
不意に顔を上げると、遠くの方で、石井達が快彦を見て笑っているのが見えた。
あぁ、やっぱり、と快彦は肩を落とし、気まずい気持ちで先生の方へ歩いた。
 
 
「プリントを......忘れてしまいました」
 
 
 
・・・・・・
 
 
 
 
「またか? 坂本」
 
「ごめんなさい......」
 
もう皆、席について静かに2人を見ていた。
 
「最近多いぞ。しっかりしなさい」
 
「はい......」
 
快彦は皆の視線を見ないように、席へ戻った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ヨシ」
 
 
 
 
授業が終わって休憩になると、松岡が快彦のところに来た。
 
「最近、ヨシ忘れ物多いよな」
 
快彦はドキリとした。言われることが、なんとなく想像できた。
 
「『忘れてる』んじゃなくて、『盗られてる』んだろ?」
 
「......」
 
快彦は黙った。言わなくても、松岡は分かってるだろうし、バカみたいだけど、未だに認めたくなかったから。
 
「石井のグループに、やられてるんだろ?」
 
 
 
 
 
快彦は黙ったまま。それでも松岡は続けた。
 
「大丈夫なのか」
 
それでも快彦が黙っていると、「じゃあさ、」と松岡は言った。
 
「本当に辛かったら、言えよ」
 
快彦は黙ったまま、俯いた。
松岡は、な、と念押ししてから、自分の席に戻った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
本当は嬉しかった。
 
 
 
 
 
 
 
自分には味方がちゃんといるって自覚できるようで。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
だけど、それとともに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いつかそれが無くなっちゃうんじゃないかって、不安になって。
 
 
 
 
黙ってた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「...ごめん」
 
 
快彦は、小さく小さく呟いた。
 
 
 
 
 
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