第7話
その日の昼休み。
「よーしひこっ!」
快彦の席に、松岡がやってきた。
「外で遊ぼーぜっw」
松岡はとてもウキウキした様子で快彦に言った。
「いいよw」
快彦は朝のことをすっかり忘れて、松岡と遊んでいられた。
しかし。
「......あれ?」
休み時間が終わり、快彦が次の授業の準備をしようとした時だった。次の授業は歴史。だが歴史の教科書が見当たらない。
「持ってきたはずなんだけどな......」
確かに昨日、ランドセルに入れたのだ。
「やっぱり忘れたのかな......」
机の中も、ランドセルの中も探したが、教科書は見当たらない。
快彦は怒られるかな、と肩を落とした。
「坂本」
先生が教科書を読み上げながら教室を回っていた。そして、快彦の横を通ったとき、快彦の手元に教科書が無いことに気づいた。
「坂本、教科書は?」
『無くなった』とは言いづらくて、快彦は
「忘れました」
と言った。すると先生は、快彦が忘れ物をしたのは初めてだったので怒らず、「隣の人に見せてもらえ」と言った。快彦は渋々頷き、隣に「見せて」と頼んだ。
しかし、隣の席の女子は、快彦の言葉に反応しなかった。逆に、教科書を立てて、快彦に見えないようにしてしまった。快彦は少し悲しくなったが、これ以上頼む勇気がなく、先生の話をひたすら聞いていた。
その日快彦は、家に帰るとすぐに教科書を探した。自分の部屋、リビング、ダイニング、さらには弟立つの部屋までも探したが、教科書は見つからなかった。
「やっぱり、ない......」
朝の画鋲のことと、重なって考えてしまう。
怖い。
信じたくなかった。朝の教室の、微かな笑い声とか、自分を無視した女子。
昔と重なる、自分への軽蔑の目、嘲笑う声。
「やだ、よ......」
盗られたって話したら、昌行くんはなんて言うだろう?
怒られるかな。
悲しそうに笑って、新しいの買ってくれるのかな。
迷惑って、思うかな......。
嫌な考えが広がって、昌行にも、博にも言うことが出来なかった。
言えないまま夕食を食べ、風呂に入って。
寝る時間になってしまった。
「昌行くん、博くん、おやすみなさい」
快彦は結局教科書のことを言えないまま、布団に入り、眠ってしまった。