第4話
快彦は、昌行、博、剛、健、准一と血がつながっていない。昌行たち5人の母の、姉の子供なのだ。
快彦は4歳のとき、今の家にやってきた。そのとき、昌行と博は12歳と11歳。2人は、快彦が本当の兄弟でないことを知っている。
そして、なぜここに来たのかも。
快彦は、両親から虐待を受けていた。
両親は、快彦のことを酷く嫌い。まだ小さな快彦の身体を殴り、蹴り。食事もほとんど与えなかった。
殴られて、快彦が泣きそうになれば、すぐにモノを投げつけ、 快彦に罵倒を浴びさせた。
だから、快彦は泣けなくなってしまったのだ。
快彦の身体は、痣だらけで、痩せすぎていて。
そしてある日、昌行たちの母親が家を訪問し、部屋の隅で倒れている快彦を見て、「引き取らせてほしい」と頼んだ。快彦の両親は、「勝手にしろ」と、興味なさそうに言ったのだった。
快彦が初めて坂本家に来たとき、昌行と博はとても喜んで快彦を迎えた。特に弟が欲しかった博は、すぐに快彦に寄っていった。
しかし。
最初の頃、快彦は全く家族に懐かなかった。
手をさしのべても、怯え。「快彦」とよんでも、不安そうに、少し距離をおいて、近づくのだった。
生まれてまもなく、容赦なくあたえられた暴力によって、快彦には、身体だけでなく心にも大きな傷が残ってしまったのだ。
それでも、昌行たちは懸命に快彦と接した。
そのおかげで、快彦の表情は和らいでいき、しっかりしゃべるようにもなった。そして、快彦はいつでも笑顔でいるようになった。
ただ。
快彦は、どんなにつらくても、悲しくても、痛い思いをしても。
泣いたことが無かった。
いつも、「大丈夫!」と笑っていた。とてもつらそうに、笑っていた。
「よっちゃんは、さ」
博の声は、少し震えていた。
博「まだ、昔のことが忘れられないんだろうね」
泣けば、叩かれる。
泣けば、蹴られる。
それが、まだ快彦の身体から抜けていないのだ。
「もう、大丈夫なのにな」
昌行は、寂しそうに呟いた。