SHINING SMILE 3

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そしてとうとう、准一が退院することになった。

 

 

 

 

「長野せんせー、お世話になりました」

 

「いえいえ」

 

准一がお辞儀すると、長野は笑ってお辞儀した。

 

「ありがとな、長野」

 

俺が軽く微笑むと、奥から井ノ原が言った。

 

2人とも、また遊びに来てね!」

 

すると准一は、「うん!」と元気良く頷いた。

 

「でも、もう怪我では来ちゃダメだよ」

 

長野が付け足すように言うと、准一は「もちろん」という風に、ニッコリ笑った。

 

「また剛と健も連れて来てね」

 

井ノ原が言った後、俺と准一は病院を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく経ったある日。

 

「井ノ原くーん…」

 

「あれ、健!」

 

 

個室の病室になった井ノ原のところに、健1人だけが訪ねて来た。

 

「わー来てくれたんだ。今日は健1人なの?」

 

「うん。剛と准は後から来る…」

 

健は照れたように言った。

その姿がなんだか可愛くて、井ノ原はニコニコして言った。

 

「健ちゃん、かわいい♪」

 

すると健は眉にシワを寄せて、

 

「健ちゃんって言うな!」

 

と顔を赤くして言った。

井ノ原はまたそれをかわいいと思ってしまいアハハ♪と笑った。

 

井ノ原が笑っていると、三宅は嬉しそうに笑って言った。

「井ノ原君って、いっつも笑ってるね!」

 

「えっ…」

 

「井ノ原君、いっつも楽しそうだよ。幸せそうっていうか…」

 

羨ましいな、と健は笑った。すると、井ノ原はニッコリ笑って答えた。

 

「もちろん、幸せだよ~♪ 皆優しいし☆」

 

井ノ原はニッコリ笑ってた。

 

 

 

 

 

 

「ウ~ン剛と准遅いなぁ」

 

健が時計を見て呟いた。

 

「早く来ないかなぁ」

 

 

健が心細そうに言うと、井ノ原が言った。

 

 

 

 

 

「健にとって、剛と准ちゃんはどんな存在?」

 

 

 

井ノ原の急な質問に、健は驚いた。

 

…なに? 急に…」

 

…いや、なんか思ったから」

 

健は答えた。

 

 

 

 

…剛と准は、大事な友達だよ」

 

当たり前じゃん、と健は笑った。

 

 

 

 

 

「そっか」

 

井ノ原が笑うと、健は加えて言った。

 

 

 

 

「井ノ原君も、だーいじな友達だよ?」

 

「え?」

 

「井ノ原君も、坂本君も、長野君も。大事な友達!」

「健ちゃん…大好き!」

 

井ノ原はとても嬉しそうに笑って、健に飛びついた。

 

「健ちゃんって言うなっつーの!」

 

健はそう言いながら、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい井ノ原く~ん」

 

しばらく経つと、入口から剛と准一が顔を覗かせた。

 

「あー! もう、剛も准も遅いよぉ」

 

健が頬を膨らませて言うと、2人はゴメン、ゴメンと言いながら健が座っている椅子の隣に座った。

 

「イノッチ個室に移ったんだね」

 

准一が言うと、井ノ原はつまらなそうに言った。

 

「そうなんだよ~! しゃべる相手いないから、すっごい退屈ぅ~」

 

「井ノ原君が煩いから移されたんじゃないの~?」

 

「あっ、健ちゃんひどーい!」

 

健がふざけて言うと、井ノ原は泣きまねをして「よっちゃん悲しい…」と言っていじけて見せた。それを見て、3人はますます笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「イノッチ、今日は屋上行かないの?」

 

イノッチというのは、准一が井ノ原につけたあだ名だ。

准一が言うと、井ノ原はパアッと目を輝かせた。

 

「お! 行く? そーいや3人は全然オレの歌聞いたことないでしょ」

 

「オレの素晴らしい歌聞きたい?」と井ノ原は笑い、3人とともに屋上へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

屋上に着くと、井ノ原はベンチに座り、優しくギターを弾き始めた。そして、いつもの歌を歌った。

 

剛たち3人は、静かに井ノ原の歌を聴いた。

 

 

 

 

 

 

「オレ、イノッチの歌、好きだよ」

 

准一が、井ノ原の隣に座り言った。

 

「ありがと、准ちゃん」

 

井ノ原はギターを弾きながら、ニッコリ笑って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも、准一、健、剛は、学校が終わると病院に通った。その度に井ノ原はとても喜んで、3人の話を楽しそうに聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日。

 

「よっ!」

 

その日は、剛が1人で来た。

 

「おぉ~。剛! 今日は1人なんだ~」

 

「まぁね」

 

剛は井ノ原のベッドの脇の椅子に座った。

 

「さっき坂本君も来てさ~。屋上もう行っちゃったんだよね。ごめんね~」

 

井ノ原は悪戯っぽく笑った。剛は目を逸らし、「べつに」と素っ気なく言った。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、剛の学校の話や、井ノ原の話をしていたが、剛が突然言った。

 

「あのさ、」

 

「うん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「井ノ原君の笑顔は、ホントの笑顔?」

 

 

 

 

 

 

……え?」

 

突然のことで、井ノ原は少し困惑した。

剛は井ノ原の目を見て続ける。

 

 

 

 

 

 

「井ノ原君、ホントに幸せなの?」

 

 

 

 

 

 

 

……何言ってんの?」

 

「そんな風に笑って。他の感情はねーの?」

 

……」

 

 

井ノ原は俯いた。

 

「井ノ原君って、いっつも笑ってるけど。たまには、泣いたり、怒ったりすんじゃん? そーいう感情をさ、もっと表に出してもいいんじゃないの?」

 

 

室内がしん、と静まりかえった。

 

 

 

 

 

 

…わりぃ。俺やっぱ、帰るね」

 

剛は椅子から立ち上がり、病室のドアに手をかけた。

 

 

 

 

「剛」

 

井ノ原が顔を上げて言った。

 

 

 

「サンキュー…な」

 

 

 

井ノ原は笑ってみせた。しかしそれは、どこか寂しそうな、無理してるような笑顔で、剛は見ていられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「井ノ原君の笑顔、嫌い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剛は言って、外に出た。井ノ原の止める声がしたが、無視してドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

井ノ原君は今、どんな顔しているだろう。

 

 

 

困った顔して、笑ってる?

 

 

 

無理矢理笑顔、作ってる?

 

 

 

 

…だけどオレは、井ノ原君のそんな笑顔は見たくない。

 

 

 

 

 

 

 

そんな笑顔、大嫌い。

 

 

 

 

 

 

 

 

バカみたいに、スッゴく嬉しそうな井ノ原君の笑顔が見たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

…最近の井ノ原君、

   無理して笑ってばっかだよ。


 
 
 
 
 
 
 
 
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