今日は朝から雨が降っていた。少し肌寒いと感じる、夏の終わり。
もう既に蝉の鳴き声は聞こえない。
(朝からテンションさがるなぁ…)
直樹は恋人である倫子に呼び出されて待ち合わせである公園へと来ていた。
いつもは子供たちがいて賑やかな公園だが今日は雨の所為か、嘘のように静まりかえっている。
直樹はこの日、倫子のための数日遅れの誕生日プレゼントを渡そうとしていた。
最近、お互い仕事が忙しくて倫子の誕生日ですら会えなかったことを直樹は気にしていた。
そして誕生日プレゼントを渡すと同時にプロポーズをしようと考えていた。
しばらくすると赤い傘を持った見知った女性がこちらへ歩いてくるのが確認できた。
「あ!倫子ちゃん!!」
直樹は傘を少し上にあげてあいてる片方の手をぶんぶんと振る。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いやいや!!全然!
俺も今来たところだから!」
(本当はかなり待ってたくせに…)
倫子は直樹の七分の袖から覗く腕に鳥肌がたっていることを見逃さなかった。
「そう??」
変に気を使わせるのがあまり好きでない倫子だが、もう何年も直樹を見てきて何を言っても頑なに首を縦に振ることはないということも十分理解していたので軽く流した。
「み、倫子ちゃん!!俺っ…」
「あのさっ、あたしたち…」
「え?何?」
「別れよっか…」
「えっ…」
直樹は倫子の言った言葉を理解することが出来なかった。
無意識にポケットに入っていたプレゼントを握りしめる。
(嘘って言って、倫子ちゃん…)
「あたしさ、やっぱりあの人のことが好きなの。
いつもあたしの心の中にいるのはあの人…
それとね一緒にいてもね、
どうしても恋人として意識できないっていうか…」
「…そっ、か……」
(なんだ、俺、バカみたいじゃん…)
*****
―すみません、この指輪…
―この指輪に使われてる宝石には永遠の愛っていう意味があるんですよ
―…!!これくださいっ!いくらですかっ!?
―こんなに愛されて彼女さんも幸せでしょうね
―はいっ!!俺、彼女を愛する気持ちは誰にも負けません!
*****
(ただの勘違い、か…)
正直、直樹は倫子も自分のことを好きと想ってくれてると思っていた。
しかしそれはただの勘違いに過ぎなかった。
(情けないなぁ…刑事である俺が人1人の気持ちすらわかんないなんて…)
「ねぇ、倫子ちゃん」
「ん?」
「俺のこと、好きだった?」
(好きだったよ、なんて一言で表せないくらい好きだった…)
でもこれはきっと恋愛感情なんかじゃない、友達を大切に思う気持ちと同じ。
でもせめて、今だけは…
「うん、好きだった」
「…っ!!
……そっかぁ~まぁ倫子ちゃんは綺麗だしモテるからなぁ~」
(なんで無理して笑うのよ…)
本物の笑顔が見たい、倫子はそうは思うものの、自分にはそれを言う資格がないと目を伏せる。
「これからもさ、
"友達"として一緒にいちゃだめかな?」
「え?」
「俺、倫子ちゃんの笑顔好きだし、それが見られなくなると調子狂うっていうか、なんていうか…」
「そう思うんなら…」
(違う、こんな言葉が言いたいんじゃない)
「ありがとう、倫子ちゃん…
お幸せにねっ!
あっ、誕生日プレゼントもう少し待っててね!
まだ準備してないんだ」
「平気だけど…ねぇ、」
「ごめん、俺さ友達と昼飯くう約束してるから
じゃあまた明日!」
「あ、うん…じゃあね」
倫子は直樹に流されるがままいつもと変わることのない背中を見送った。
(悲しいのになんで笑ってられるのよ?)
(絶対に倫子ちゃんの悲しい顔なんかさせたくない、"友達"としてでも)
*****
―なぁ、直樹
―なに?兄貴
―悲しみって人にうつるんだって、だから絶対にお前は悲しい顔したら駄目だからな、別れるときでも笑顔だぞ
男と男の約束だ
―なーに言ってんだか…
兄貴の方こそ気をつけろよ?
*****
倫子が心配してくれているのは理解していた。
でも、最後に心配をかけるのは直樹のプライドが許さなかった。
直樹は来た道を帰って行く。
ポケットのプレゼントを握りしめながら…
(ホントは泣きたいくらい悲しいよ…)
でもね、
俺だけを見ていたときが一瞬でもあったなら…
俺はこの人に芽生えた恋を幸せと呼ぼう。
恋は盲目。-幸せという名の恋-
(俺は幸せだったよ、君を好きでいられた時間
そしてこれからも君のことを好きでいるよ)
儚い物語。SKYさまより、一周年記念に頂きました!! いやもう、こんな私にプレゼントを…(号泣)
ちょっぴり切ないお話ですが浅輪くんの倫子ちゃんへの想いがすごく素敵でしたv
ありがとうございました! SKYさまのサイトにはリンクから行けますのでぜひ♪
2011.8.21