光とは、何ですか?
闇とは、僕のいる、世界のことですか?
blindness
Side.I
オレは生まれつき目が見えない。オレが母さんのお腹の中にいるときに、母さんが病気したかららしい。
でも、その母さんも、声さえちゃんと聞いたことのない父さんも、オレが4歳のときに死んだ。2人で車に乗って買い物に行ったとき、よそ見運転してた車とぶつかって。オレが連絡を受けたときは、すでに息を引き取っていた。
それで残ったのは、オレと、10歳上の兄貴(名前は昌行)。
両親が死んだとき、兄貴はギュウッとオレを抱きしめて、泣いていた。
兄貴の顔は見えなかったけど、抱きしめている腕が、微かに震えていて、泣いているのだと思った。
兄貴もまだ働けるような歳じゃなくて、2人じゃ暮らせなかったから、オレたちは父さんの両親の家に移った。
お爺ちゃんは優しくなかった。目が見えないオレを、敬遠したがる人だった。
お婆ちゃんは、優しかったんだけど、やはりどこか、腫れ物に触れるみたいな態度で、よそよそしかった。
オレは目は見えなかったけど、何となく、そういう雰囲気は感じてた。だからオレは、いつも兄貴に引っ付いていた。
兄貴もオレの気持ちをわかっていたのか、いつも手を繋いでくれて、オレの傍にいてくれた。
一緒にいて、と我が儘を言うオレに、いつも付き合ってくれていた。
兄貴は、オレが10歳になったとき、就職した。そして、2人で家を出た。お爺ちゃんとお婆ちゃんは、心配そうだったけど、ホッとしたと思う。肩の荷が降りたっていうのかな。オレと兄貴は、都内のマンションに引っ越した。
お隣りには、兄貴と同じ仕事をしている、博くんが住んでいた。博くんは優しくて、オレとたくさん遊んでくれた。
そして、親友ができた。
個人授業の勉強で、普通の学校じゃなかったオレには、友達はいなかった。
同い年の子に接触することがあれば、目が見えないことを馬鹿にされたし。
なってくれる人はいなかったし、作ろうとも思わなかった。
だけど。
隣の部屋に越してきた松岡昌宏にだけは。
嫌われたくないと思った。
初めて逢ったとき、オレのこと馬鹿なんかにしないで。
よろしく、と強く右手を握ってくれて。
よく家に来るようになった。
昌宏はオレを特別扱いしないで、普通に接してくれて、凄く嬉しかった。
最初、普通に接してくれる昌宏に俺は戸惑って、聞いたんだ。
「友達に、なってくれるの…?」
そうしたら、昌宏は何言ってんだよって笑って。
「あったりめーだ」
と、オレの頭をポンポンと叩いた。
俺はお前を嫌ったりしないよ。
と。
真剣に、言ってくれた。
初めての、友達。
失くしたくない、と思った。
いつまでもこの幸せを、掴んでいたい。
そう、思った。