----------------なあ、昌宏。今、俺たちが見てる空は、どんな色してる?--------------------
失わないもの
俺は去年、交通事故に遭って、突然目が見えなくなった。
そして、何もかも失った。
小さい頃から続けてきた空手。頑張ってやってきて、もう少しで全国大会まで行けるところだったのに。
先生からも、仲間からも、失望されたと思う。
父さんに買ってもらったカメラ。俺は空を撮るのが好きで、そればっかり撮っていた。だけどもう、俺の目に映るものは何も無い。
朝日も、夕焼け空も、満月の光る空も……。
もう、みんなみんな、無くなった。
「生きてる意味、あんのかな」
呟くと、隣にいる昌宏が、「は?」と拍子抜けした返事を返した。
「どういう意味?」
「目見えないんじゃさ。もう空手出来ねぇし、写真も撮れねぇじゃん」
俺が淡々と言うと、昌宏は困ってるみたいだった。
「でも、さ。お前がいなくなったら、みんな悲しむっしょ? だから…」
「誰も悲しまねぇよ」
昌宏の言葉に、正直俺は笑った。
「いなくなったらいなくなったでさ、みんな普通の生活送るんだよ。逆に、目見えない俺なんかいたら、迷惑っしょ。今だって俺、色んな人に迷惑かけてばっかりだし」
自嘲気味に笑いながら。
「オレは迷惑してねぇよ」
すると昌宏が、真剣な声色で言った。
「確かに目見えねぇと出来ないことはたくさんあるかもしんないけど。そんなんで潰れるお前にオレは迷惑してるよ」
ペシ、と昌宏に頭を叩かれた。
「目見えないからって弱気になるな、バカ」
最後の方、昌宏の声は恥ずかしそうだった。多分、昌宏は今顔を真っ赤にしているのだろう。あーあ、目が見えたら今しているだろう昌宏の顔を写真に撮って、取り合いしてゲラゲラ笑えたのに。
俺はそう思いつつ、昌宏にビンタのお返しをした。
ホントは、嬉しかったんだけど。